生まれたときから誰もが美しいと認めるくらいの男児。
幼き日に変質者によりあそこを切り取られるという酷い目にあい、それが故に恋心や性衝動などと縁が無く、しかし類い希な美しさから周囲の女性からも男性からも求愛の対象となってしまう男が主人公。
電車に乗れば男色オヤジに付きまとわれ、中学に入れば靴箱がラブレターで溢れ、さて生活に支障が出るレベルのモテ方であるが、本人には全くそのような興味は無く、どのように生きていけばいいのか悩みは尽きない。
主人公の彼は幼い頃から色恋に興味がなく、従ってそれを創作の活力とする芸術などにも関心がいかず、残りは味覚ということで料理や食に対して興味が出てくる。
つかみはそういう感じ。
才能や周囲に恵まれ、欲も無くやりたいようにやっていたら事が上手く進んでいくのは同じ筒井さんの「美藝公」のような雰囲気ありますね。
切り取られた故に無形文化財ならぬ無茎文化財という主人公の自虐にちょっと笑ってしまった。
注釈ありの難解な言葉遣いが多く、空白行も無いために読みにくさはあります。
読み終えて、最後の部分が言いたかったんだろうなと思った。それを書くために主人公のような聖人が必要で、延々と冒頭の事件から何から話を進めていたような気さえします。
それは、科学技術文明と資本主義経済の破綻が同時に起こり、災害や原発事故で人類が滅びる時期が予想より早いのではないかという認識を多くの人が持った。どうせ滅びるなら理想だけは高く、仲良く和やかに滅びに至ろうと諭そう。それについてはリビドーやコンプレックスから脱した高みで論じるために哲学や宗教が必要になってくる。ということだと思いますが。
全体的に主人公が男女関係に大らかなことや、娘(=妹)の恋の発現で話を終わらせたことから、去勢された主人公に知り得ない人の欲望や恋という感情にもっと大らかでもいい、もしくは恋愛感情は重要なエンジンということも書きたかったのかも。
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