一般的な人の情感が理解できない主人公(恵子)のお話です。
ある種障害とでもいうのか、そういうレベルなのかもしれない。子どもの頃の彼女は突拍子もない行動に出てしまうことがあり、成長につれ息をひそめて生きるようになっていく。
サラリーマンは歯車と言われることがありますが、彼女はそれにすらなれず、コンビニの店員になって初めて世界の正常な部品になれたと感じました。コンビニには完全なマニュアルがあるので「店員」として振る舞える。マニュアルの外では、どうすれば普通になれるのか分かりません。
朝になればまた店員になり世界の歯車になれる。そのことだけが自分を正常な人間にしていると感じる。普通でない主人公が、普通らしく生きようとしたらコンビニという居場所があった。
ここまでが前半、その後どうなるか。
男が出てきます。
「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできたんだ。」
世の中に悪態ばかりついているタイプの男ですが、彼は普通の怠け者です。
「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ。」
最初、つまらないと思っていましたが、上の男の台詞の辺りから俄然興味が出て、最後の方はおどろおどろしくすらありました。現在は多様な生き方だなんだと言ってはいますが、実情は縄文時代となんら変わらないムラ社会。
主人公の恵子は今まで「あっち側」でした。それが男との関係をきっかけに「こっち側」に来たものだと周囲が勝手に思い込む。そして「こっち側」ならと安心し、詮索し忠告しお節介を焼く。世の中って怖い。
多かれ少なかれ、人前では他人に合わせつつ生きていますよね。
悲しさだって皆と同じタイミングで現れるか分かりません。あれ、俺はあまり悲しくないぞと思っていても、あとでじわっとくる場合もある。本当は特に悲しくない場合もありますしね。しかし異端だと面倒なので、同じような顔をして他の人と合わせていた方が楽です。
ただ彼女はそのレベルでもないようで、人の反応で特に怒りが湧いたり悲しんだり落胆するわけでもなく、本当の事を言うとどうでもいい。ただ他人の反応が面倒くさいので、そうならないように振る舞いたいという希望は持っていて、会話は妹からレクチャーされた返事で返すなど、実際にそうしています。
単に「こわ~い」と言われてしまいそうではあるけれども、程度の差はあれ生きづらい人には理解できる話でした。
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