素晴らしく面白いんだけど、とにかく長い!宮部みゆき作品です。
ひと言でいうと、学校の屋上から同級生が転落死した事件の真相を知りたいと自分達で動き出した中学生が学校内で裁判を開く。そこにはとんでもない真実が?…というお話です。
一旦は自殺として集束するものの、殺人だという告発があったり学校の事なかれ主義、警察の捜査は十分行われたのか、そこに記者の歪んだ主観が入ったテレビ報道も絡んで何が真実だったのか同級生も分からなくなるわけです。
そこに三年生の課外活動としての一環で、本当の事を知りたいという生徒達が集うという流れです。
そもそも遺書が残されなかったので自殺の理由は不明でした。亡くなった生徒ですが、彼は普段から独りでものを深く考える質だったようで、老成したというか、小さな哲学者のようでもありました。
転落死事件の数ヶ月前から彼は不登校になります。彼は学校には何も期待しないし登校する意味も無いということを話していたことから、組織に対する不満、現在の学校や企業の隠蔽体質、政治の酷さなどをみて、こういう世の中では生きる意味が無いというように考え込んでしまったのかもしれない。学校というシステムからは飛び出せても、社会というシステムからは逃れられない。それを自殺の動機だと近しい人は考えます。
むりやりリタイアを絡めるわけじゃないのですが、ここで一瞬早期リタイアを思い出します(笑)中学生で既に嫌いな組織には属したくないという早期リタイア気質だったのだろうなと読んでいて感じました。
この小説は三部に別れています。
第一部は「事件」。
実際の事件が発生し、それを取り巻く主だった登場人物の背景や各自が取る行動の理由付けが書かれたのが第一部です。
第二部は「決意」。
学校内裁判を開くに至った過程と、生徒による検事、弁護士、判事、廷吏、陪審員などの役割分担。また検事と弁護士、それぞれの役割から見た事件の調査などです。これにより警察の捜査でも見落とされていた事柄が少し明らかになってきます。
第三部が「法廷」。
実際の学校内裁判が行われ、途中色々ありつつも裁判は進んでいく。そして今まで明かされなかった真実がいよいよ…。という具合。
読み始めに思ったどうでもいいことは、(大きなお世話だけど)冗長すぎないのか。こんなに人物の背景を説明しないといけないものかということ。しかしこの各自の背景が細かく描かれることでその後の気持ちの動きもより理解できるのでしょうね。
1巻目(文庫で読んだので1~6巻まで)、その描写である登場人物の悪意がすごく、嫌悪感でちょっと読むのが嫌になったことがありました。その人物の毒気にあてられ、夜眠っていて無意識にちょっとストレスがかかったかもしれません。
その後2巻目の中盤くらいでかなり面白くなって、早く続きが読みたく、止められない猿のような状態になりましたけど(笑)
この小説は、中学生が世をはかなんで自殺するほど社会や世の中のシステムはどうしようもないと訴えてもいる面があるのだと思うし、しかしそれでも生きるのは悪いもんじゃないと教えてくれる面もあると思います。
加えて中学生が学校内裁判を通し成長していく物語でもあります。優等生だけでなく、目立たず大人しい生徒もあれこれ経験することで自信をつけていきます。若い頃、特に中学高校時代の経験は生涯を通して糧になるものなので、こういう小説は若い人に読んで欲しいですね。
最後の方で自殺した少年の父が語ったことがあります。息子には小さい頃から何かがあった。だから特別な人間になると思っていた。そこら辺のつまらん人間とは違うんだと思っていたと。
社会の中で何の役にも立たないつまらんおっさんが感じる、ここが個人的にこの感想の中で唯一重要な部分ですが、
もしかしたら作者は逆に、「特別な人間、特別な人生じゃなくていいんだ。」「そこら辺にうろうろしている、消費者としてしか社会に存在する意味がないような、つまらん人間でもいいんだ。」ということも言いたかったのかもしれません。
難しく考えすぎて人生を手こずらせるくらいなら、のんきにやった方がいいのかなと私も思います。ナンバーワンどころかオンリーワンでなくてもいいんですよ(笑) 全く普通のどこにでもいるつまらん人としてそこら辺に埋もれたままで楽しくやればいい。
これ、読んでいる途中で既に続編があれば読みたいなと思いました。続編というか、登場人物が魅力的なので再登場を希望するということですが。
学校内裁判で検事、弁護士役をやることになった藤野涼子と神原和彦という登場人物がそれですが、大人になって、二十年後、実際に役通りの職に就いていて法廷で対決するという…。
そういう単純な構図にはしないでしょうけど、脇を固める藤野涼子の両親や助手を務める中学生の仲間もキャラが立っているので後日談も読んでみたいなと。
とか考えていたら最後まで読むと、本編の最後に数ページですがある人物の後日談がありました。それと文庫版には最終巻に後日談の為の後日談というような読者を喜ばせる短編「負の方程式」が収録されています。
ここに収録されているからには、この短編は「ソロモンの偽証」で登場した誰かが出てくるのだろうなと思ったら、文中、主人公が後ろから呼び掛けられる場面がありました。そこに「涼やかな声だ。」とか書いてあるじゃありませんか。「涼」…これはもうあの人かとにんまりするわけです(笑)
更に呼び掛けられた方は別のシリーズ(名もなき毒、ペテロの葬列など)の登場人物である探偵ですし宮部さんはファンにサービスしすぎですね(笑)。本来は関係なかった別系統の作品の登場人物が、どちらかのシリーズに入り込んだりするパターンのやつや!どっちも読まされちゃう戦略のやつ…(笑。ちょっとネタをバラしすぎたか。本編じゃないからいいよね)
最後に感じる事がある言葉だったので第二部のエピグラフを引用
勇気のある人間が賢くなり、賢い人間が勇気を持ってはじめて、人類の進歩というのもが感じられるようになるだろう。これまではしばしば、まちがって別のことが人類の進歩だと言われてきたけれど
エーリヒ・ケストナー 飛ぶ教室より
(* m(_ _)m。ソロモンの偽証を読んでる人じゃないと何が何だか分からん内容かもしれませんが、ネタバレせず内容が分かるように書くなんて俺には難しいので。ちなみに映画版の方はまったくのノーチェック状態です。タイトルに入れた「ソロモン」は文庫の解説に見解が書かれていますよ)
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