「これからの正義の話をしよう」マイケル・サンデルを読みました


何年か前に話題になった「電車が真っ直ぐ行けば5人死んでしまう。線路を切り替えれば1人が死ぬだけですむが、どうする?」という問で話題になった本です。

たしか働いている頃に購入したもののずっと積ん読してあり、最近少しずつ読みました。あの頃はストレス解消で読むより買うが目的になっていたんでしょうね。タイミングを逃すとなかなか読まなくなってしまうというのは時間があっても同じよね。

 

上の例は線路のポイントを切り替えても仕方ないだろうとする人は多いかもしれませんが、では、まったく無関係の太った人がたまたま陸橋にいて、彼を線路上に落とせばその電車を止められることが判明している場合、果たして落とすのでしょうか。

単純に命の数で考えると、どちらも実行すれば1人が犠牲になることには変わりなく、何もしなければ5人が犠牲になるという。つかみとしてこの話が始めに出てきました。

 

この本は上記の様な例を角度を変えながら示し、自由や権利、公正や正しさについて考えようというもの。

実際にあった道徳的に賛否あるような題材を、異なった立場から検討してみる。すると、ある問題ではAを良しとする考え方が、別の問題ではBよりになり、説得力ないよねという状況になる。

過去からの系譜で、誰それの思想は常に何々を基準に置く。別の誰々はこの点で一貫性がある。こういう考え方はこの点が矛盾している…のような話が出てきて、何となくの興味はありますが哲学的な素養がないので、ちょっと深くは読めないっすw

でも自分の考え方はどういうものなのか整理したり、こう考えていたけどそういう矛盾点があるのか!と気付く手助けにはなりそうだし(ますますわからなくなったりw)、全体的に初学者に興味を持たせるという目的があるのかな。

 

何が正しいかは時代や環境によってアプローチも異なっていて、属する共同体における道徳的、倫理的なものがあり、ある場面においてこれが絶対正しい振る舞いというものでもないのよね。人類に共通のこれは正しいという感覚はありそうだけど、問題が複雑になる程違った意見も出てくるだろうし。

そういうことで、古来より多くの人があれこれこねくり回して考えてきた流れを踏まえつつ…という感じ。

 

読みにくい箇所も多いですが、最後の章の「同性婚」につていなどは、哲学関係なく誰でも考えやすいと思うけど。

パターンとしては
1.異性間の結婚のみ認める
2.異性間も同性間の結婚も認める
3.公が結婚という制度から手を引く
がざくっと考えられます。

3は真に中立な立場をとるなら同性婚でもドリカム状態でもお好きにして下さいということで、民間で結婚式や保障制度など色々やるのは構わない。トラブルに対しての法的な決め事(同棲/内縁関係)があれば公は同性婚を認める認めないの議論に関与しないで済む。もちろん、いや当事者の同意だけでなく公的な承認が必要なのだという立場もある。

結婚の本質、目的というものも生殖や愛情など解釈がそれぞれあるし(生殖としての結婚vs独占的で永続的な関わり合いとしての結婚)、宗教的、道徳的、倫理的な観点や子どもをつくる目的だと主張が1になったり、というような内容が書かれていて、すんなり分かりやすい部分は面白かった。

 

 

以下、メモ的な。

本書による正義への三つのアプローチ
1.社会全体の幸福を最大化。功利主義者のアプローチ(最大多数の最大幸福)
2.正義を自由と結びつける。リバタリアンのアプローチ(正義は選択の自由の尊重を意味する)
3.道徳的な観念から見て人々にふさわしいものを与える。美徳に基づくアプローチ(2だけではなく善を考えることも必要)

 

考え方の一つに「功利主義」というのがあり、最大多数の最大幸福が優先されるみたいなことですが、なら一人を犠牲にしてその他全員が幸福になるなら、それは許されるのかという問題がある。(生け贄みたいな感じ)

「最大幸福」原理への反論としては、
・人間の尊厳と個人の権利とを尊重していない
・最大幸福と言うが、道徳的にも重要な全てのことを快楽と苦痛という単一の尺度に還元するのは誤りではないか
というもの。

→ベンサム「功利主義」→ミル「自由論」(個人の権利との調和を試みる)

功利主義の問題は例えば、爆弾を仕掛けた一人を拷問すれば、何千人もが助かるというような場合。それが進んでしまうと、容疑者に直接苦痛をあたえても答えは得られない場合、本人でなく、その無実の娘を痛めつければ容疑者が白状し何千人もの命が助かるなら、それは許されるのか?(ドラマの24とかそういう場面ありがちな気がする。そして関係ない人がジャックバウワーを糾弾するみたいなやつ)

 

→カントは功利主義を批判、現在の普遍的人権の考え方の礎となっているらしい。「道徳形而上学原論」 個人の自由を全員の自由と調和。

そもそも何が最大の幸福をもたらすのか?ということ。必要性、選考、利害、欲望などは変わりやすいため普遍的な道徳原理の基準になり得ない。人間を支配するものは「快楽」「苦痛」だけではない。少なくとも「理性」が前面に来る場合もあり得る。

 

→ジョン・ロールズ「正義論」。無知のヴェールという思考実験上での同意が公正。平等の原初状態における仮説的な同意。

自分の立ち位置がわからないような、自分はビルゲイツかもしれないがホームレスかもしれないような、交渉力に差がない状態で同意する原則でないと、人は自分の立場よりの考えを持ってしまう。

 

また、再配分について、自分としては以下をメモ。

いくら自由な社会で個人各々が自由に契約しているのだからといっても、経済的理由からそれを選択している場合がある。傭兵や代理母の契約などは、完全に自由な契約ではない場合があるだろう。(お金持ちが望んで傭兵になるだろうか)

何らかの才能もたまたまその時代で必要とされ稼げただけで、本人が努力したにしても出自や周囲の環境の運も関わっている。才能と努力だけで一般人の何百倍も稼げたわけでなく、たまたま時代などがマッチしたことも大きい。

 

本の後半はアファーマティブ・アクション(不利な特定集団の受験者だけ試験で有利にするなど)、アリストテレスの考え方、自由を考える時に所属するコミュニティの債務(例えば、家族の責任、国家賠償など)を負うジレンマをどうするかなど。

 

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