他の哺乳類(ひいては動物)と比較すると、人間の性が如何に奇妙なものであるかを説明し、なぜ人間にそのような進化が現れたのかを解いていく。
原題が「Why is sex fun?」で、直訳の日本語題では手に取られにくかったということがあり、本書の内容をより表すように改題し文庫化したそうです。好奇心をそそり、とても読みやすく書かれていてお勧め。
目次を挙げておきます。
1.人間の奇妙な性生活
2.男と女の利害対立
3.なぜ男は授乳しないのか?
4.セックスはなぜ楽しいか?
5.男はなんの役に立つか?
6.少なく産めば、たくさん育つ
7.セックスアピールの真実
生物は基本的にどうすれば種が生き延びられるかで進化していきますが、性についても同じことです。ある性的特徴が他のものよりも生存や繁殖に有利に作用するかは、その動物の食料の供給状況や捕食者に狙われる危険性、その他の生物学的特徴によって決まっていきます。
繁殖行為時にメスに食べられるクモやカマキリもいるし、繁殖のための戦略は種によってさまざま。ではどうして人間の性は他の動物から見ると奇妙になったのか?というのが導入部の第一章まで。
また、例えば三章です。生物学的にはほんの少しのきっかけがあれば男性も子供に授乳できるような身体のつくりになっていますが、進化の過程において何故そうならなかったのか等。(コンピュータ風にいうと、ハードウェアは備わっているが、そのようにプログラミングされなかったのはどうしてかという表現が分かりやすかったので挙げてみたw)
人間の性の特徴(一般論として)
・例外はあるが基本的に一夫一婦制
・オスも子供の養育に関わる(ほとんどの哺乳類のオスは交尾が終わると次のメスを探しに行ってしまう。鳥のようにつがいになる生物もいるが少ない)
・他人から隠れて繁殖行為を行う
・排卵が隠されており宣伝するようなシグナルは現れない(科学的には知っているが本能的に分からない。他の哺乳類のメスは繁殖可能をアピールし、逆に不可能な期間はオスを受け入れないものが多い)
・繁殖と関係なく娯楽のために性行為が行われる(ほんの一部、ボノボなどは楽しむ)
・女性が閉経を迎えてからも長らく生きる
特に興味深いと思ったのは「排卵の隠蔽」について。
排卵の隠蔽というのは、イコールいつでも生殖活動を行えるということです。隠蔽せずにシグナルが現れる種というのは、その時期以外はオスを拒絶することが多い。
動物の世界では繁殖行動には常に危険が伴います。なので種を繋ぐ意味では効率よく受精した方がいい。ですがヒトは無駄な繁殖行動をするよう進化してきました。
なぜ(科学的には知ることができるが)排卵を隠し効率よく妊娠できるタイミングを本能的に知ることができないのか。それは女性においてもですが、例えば他の霊長類で見られるようなお尻周りが赤くなる等の目に見える排卵シグナルがないのは遺伝子的には非効率です。
排卵の隠蔽が進化した理由で信憑性の高いものとして生き残っている説に以下の二つがあるそう。
マイホームパパ説
一夫一婦を促進し(他のオスにメスが奪われないように)オスを家に留まらせる。その結果、常時一緒にいるのだからオスに妻の産んだ子供が自分の子供だと確信を強めさせる意義があるから。
たくさんの父親説
排卵の隠蔽によりメスがより多くの相手と繁殖行動を行うことで、オスに自分の子供の可能性があると思わせる。その結果として子供はオスが運んでくる食料をより多く得られるし(オスは自分の子の可能性があるから危害を加えず)安全になるから。
詳細は本書を読んでいただきたいですが、ざくっと書くと上のようになり真逆の発想で面白い。基本的に生物としては自己の遺伝子を残すことが目的で、オスは同種であれ他者の遺伝子を排除する方向というのが前提です。
多くの真猿類の種を比較分析し系統樹も調べた結果、過去からの進化や種の枝分かれ、隠蔽とシグナル有りが繰り返されて非常に複雑な流れになっているようですけどね。
変な部分を抜き出して紹介してしまったかも。科学的見地や遺伝子を効率よく伝える投資コスト的な観点で解説されているので身も蓋もないといえばそういう話も多いです。
人間というのは我々が当たり前だと思っていても、他の動物から見たら非常に風変わりだったりするわけで、現代の倫理観に囚われずに読まないといけません。生物の多様な繁殖の戦略を知る本です。読みやすい!
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