「天使の囀り」を衝撃的に思ったわけ


今日書くのは貴志祐介氏の小説「天使の囀り」で、もう結構前に読んだものです。細かい部分は忘れていますが、読んだことすら忘れている本もある中、これは未だに強く記憶に残っています。

とにかく猿や人に寄生する線虫が這い回る描写が気持ち悪く、ぞわぞわする感覚がありました。ですが、それだけの話ではありません。

 

アマゾン(ネット通販でなく実際の密林の方w)から戻って来た調査隊のメンバーが次々に人格が異常になるのが発端です。

主人公の精神科医は調査隊の中に恋人がいたため事件に関わることになる。

調査隊のメンバーが異様な自殺をするのですが、調べていくとどうやら何かが原因で恐怖を感じないようになったのではないか?と主人公の精神科医は考え始めます。

そして調査隊が滞在していた現地アマゾンの猿にも異常な状況が見られるのを知ることになります。

 

以降、思いっきりネタバレしてますが、うろ覚えで書いてます。思い込みで書いて内容と違っている部分があるかも。

 

アマゾンの猿はある線虫に感染していました。

その線虫に感染すると脳が蝕まれ恐怖を感じなくなり、むしろ恐怖が多幸感に変換される。恐怖を感じると快楽になるといってもいいくらいで、それにより高い所から飛び降りるような事件が発生するわけです。

 

衝撃を覚えたのは、ストーリーの中で治らない病で死への恐怖と戦っている少年がいて、最後にはその少年を感染させて恐怖を幸福感へ変換するか悩む部分です。そういう利用方法があるのだよねと。

想像すると小説のアイデアとしては先ずこれがあり、そこから気持ち悪い描写や、アマゾンでの調査という肉付けをしていったのではなかろうかと。

 

この線虫はある種、人を操る生物兵器的な側面もあるし、当然ながら痛みの緩和で用いられるような医療用麻薬みたいに確立したものではありません。寄生されてしまえばどっちにしろ生きてはいられず、意図的な感染は犯罪といってもいい。

 

ただ、倫理的に葛藤しつつも、病で死を恐れている少年にとっては、この線虫を感染させた方が、せめて最後に苦しみを感じさせない方が良いのではないか?という気持ちが芽生えるのは普段少年に頻繁に接していたからこその感情だと思います。

神でない自分が世間の常識に反し、実際に少年にとって良いか悪いかわからないことを自分の想像でやってしまっていいのだろうかという葛藤ですね。

 

考えるに医療行為自体が一般に認知された方法でなければ似たようなものかもしれませんが。手術なんて切るわけだし。

当事者以外が端からみて倫理的にどうこうというのは簡単だけど、治る見込みもなく実際に苦しむ姿を間近にしていると、主人公が少年に対し行った行為は至極当然かもしれません。

 

死ぬ時の何が怖いかというと、突然苦しくなったり激しい痛みに襲われたりすることが怖いと思う。何しろ死ぬほど苦しかったり痛いのでしょうからねえ。(そうでなければ眠るのと一緒な気はします)

病気や年齢で体の自由がきかなくなり、苦痛でもう死んだ方がマシと思ったら、それ以上の苦しみや恐怖を味わいたくない。それとも精根尽き果てるまで更なる苦痛や恐怖と戦わなくてはならないのでしょうか。

 

本のレビューを見るとホラーという分類が多いですが、どっちかというとサスペンスやミステリーという部類じゃないのかな? 本質的には自分が持つ倫理感との葛藤や少年に対する行為への善悪みたいな所だと思いますが。(読んで何年も経つので、うろ覚えでそこだけがしっかり記憶に残っているのかも)

個人的にはグロかったりエグかったり気持ち悪くさせる部分を省いて欲しい気がしていて、でもそれがあっての読み応えなのでしょうね。

 

おまけ:

本は読んだ時点での自分のレベルで印象が変わると思いますが、貴志祐介さんで好きな順(適当)。最近のは読んでないんだよな~。

天使の囀り(グロすぎる傑作)
クリムゾンの迷宮(ゲーム的クローズドサークルでこれもいい)
新世界より(異世界の若者)
・黒い家(途中まで保険の話で退屈だが一気に怖くなる)
・青の炎(若者の静かな怒り)
・十三番目の人格 ISOLA(これ怖かった)
・悪の教典(これは嫌悪感しかない)

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