読書「誰かが足りない」(宮下奈都)


味が評判の「ハライ」という人気レストランに関係する何人かの内面を描く短編集。
その人たちの人生のある瞬間を共有した気持ちになった。
「ハライ」は、何か特別な日に行きたいお店なのです。

 

新婚当初に自分の料理を「ハライ」の味と比べられ、意地を張って生涯その店に行くことを拒んだばあさんの悔やむ気持ち。これはね、分かる。

他には、地元に帰れず後悔しながらコンビニで働く若い男の話、久しぶりに会った幼馴染みとの話、外に出られずビデオカメラを通してしか人と話せない男性の話など。

 

同じ店にたまたま居合わせた人は自分にとってエキストラですが、彼ら彼女らにはそれぞれに自分が主役の人生があり、誰しもが何かを抱え、それぞれの日々を過ごしています。

それを集めて一冊にした体裁で、プロローグをちょっと覚えておくと後にぐっとくるよ。

ここに出てくる人達は、誰か足りないのだろうけどまだ恵まれている感じをうけました。今の世の中、足りないどころか誰もいない人が多そうで。(自ら選んでそうなっている場合もありますが)

 

最後の、「失敗の匂いを感じ取ってしまう女性」の話が妙にいいです。

共感してくれる人は大事。
ただ、失敗に共感するばかりでなく、笑ってあげる。暗い顔をして一緒に落ち込むのではなく、笑ってあげる。
それでふっと気が晴れたりすることもあるかもしれない。
ただの失敗なのだから。それだけのことなのだから。

作中登場するキェルケゴールの「死に至る病」という本がありますが、それに教えられる「失敗自体は病じゃない。絶望さえしなければ。」という言葉がよかった。覚えておきたい。

-<「本の感想など」カテゴリーの他の記事もみてね >-

広告とか


-- 記事一覧ページへ --



Pocket

同じカテゴリーの記事

  • 会社を辞めたとき固定費削減のためにやったこと会社を辞めたとき固定費削減のためにやったこと 早期リタイアをした人は資産持ちでも節約家が多いと感じますが、私の場合は悠々自適の早期リタイアとはほど遠く資金不足のセミリタイアです。一般的には給料も上がら […]
  • 古典(やスタンダード)の重要性を感じてきました古典(やスタンダード)の重要性を感じてきました 特に新書なんて古典の一部をわかりやすくまとめたものがあるでしょ。あちこちから持ってきたりはしていても。 ブログもそういうものをネタにしている記事がありま […]
  • 今日の靴下今日の靴下 靴下に穴が空いているから洗濯してキレイにしてからどこかを拭き掃除して捨てよう、と思って洗濯機に入れる。 そんなことは忘れていて、また穴の空いた同じ靴 […]
  • マンガ『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん)5感まで感想マンガ『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん)5感まで感想 女子高生がバイト先の冴えない中年男(ファミレスの店長)を好きになってしまう話です。 店長の方は若い子にからかわれていると疑心暗鬼になりますが、どうやらJ […]
  • ちょっとブログの内容や方向性を整理ちょっとブログの内容や方向性を整理 ブログをしばらくやっていると定期的に悩むわけですが、ブログの方向性が分からなくなってます。 タイトルでうっかりやってみるとは言ったものの、特に体験的な何 […]
  • DQ10はVer.5.5後期待ちDQ10はVer.5.5後期待ち ドラクエ10はついにメインストーリーを現在リリースされている最新まで進めてしまいました。 具体的にはVer.5.5闇の根源(前期)までを終わらせたと […]
  • 「起業のためのお金の教科書」を読んでみた。節税か「起業のためのお金の教科書」を読んでみた。節税か 先ずないとは思いますが、もしかしたら起業することもあるかも?と思って読んでみました。読んでみたら起業しないと損だって感じもありますけどw ただアイデアが無 […]

SNSでもご購読できます。