読書:「モナドの領域」筒井康隆


実験的かもですが難解な小説でなく、筒井さんのここしばらくでは一番続きが気になりやめられないものでした。(実は最近のはそんなに読んでないけど)

 

難解でないとか書いてしまいました。テーマとしては難解なものなので哲学的に難解な部分があり私には理解できませんが、それでも小説として面白く、誰にでも読みやすく書かれているという意味です。

ただ今まで筒井作品を読んできたからこそのこの作品であるかもしれず、いきなりでこれを読んだらどうなの?というのはあります。宇宙的なことが好きなら最後まで引き込まれるとは思いますが。

 

冒頭の展開をちょっと書きます。

ある日、バラバラ事件なのか女性の片腕が発見される。
近所のベーカリーで新しくバイトに入った美大生が、なぜかその片腕とそっくりなパンを焼く。
その美大の教授がおかしな行動を始める。
バイトの美大生と教授には共通点があった。
教授は公園で不思議なことをやり始める。
教授、注目される。
その後、逮捕。

とにかく彼が現れた目的や、冒頭の事件とどう関係するのかが想像すらつかないので、それを知りたく読み進めてしまいました。

 

昔「エディプスの恋人」という小説があり、それは七瀬三部作とはいえ七瀬というより「宇宙意志」が…みたいな話でした。

筒井さんは昔から「時間も空間も超えて偏在する存在」というものについて考えていて、その最終形が今回の「モナドの領域」なのかもしれません。

日本語だと「神」という概念が近いですが、それは人間が勝手に考えだしたもの。そうではなく、宇宙に限りなく偏在する存在があるならばそれは一体どういうものなのか?みたいな。

 

帯に「おそらくは最後の長篇」とあり、この本に対する筒井さんへのインタビュー記事があります。

僕にとって最終的なテーマであり、おそらく文芸にとっても最終的なテーマである神について書いたので、もうこれ以上書くことはないんです。

どんなに悪いことが起ころうがもう変えようがないのは、すでにそれがプログラムされてしまっているからだ、と思えば納得できます。

 

哲学的な部分は理解できないのだけど、結局、この本で思うのは、「神」というものは人間が作り出したものであり、いくら神頼みをしても無駄なのだ。自分でやれと。

その神以上の存在である絶対的な宇宙意志というものの視点では、戦争も災害も起こることは全てモナド(プログラム)によって定められたことで、人類の滅亡後も関係なく宇宙は続くのだ。(ましてや俺が会社を辞めたようなちっぽけなことなど…)ということなのだ。

 

まあ私の知識ではうまく書けんです。そのレベルでも面白く読ませてくれるということ。結局は書いているのは作者なので小説に登場する誰よりも(神よりも)上位になってしまうのだけど、その手の以前からのメタ的な実験含め、ところどころ毒も入って筒井さんらしい本ではありますよ。

 

筒井康隆作品は高校から読み始めたと思うけど、意図するところが不明なものも多かった。でも、とりあえずは面白く読めれば良かったし、文章で声を出して笑ったのは他の人ではあまり無いよ。

例えば「48億の妄想」という、今考えればマスゴミみたいな(うろ覚えです)話とか、タイトルは忘れましたが、今でいえばネット?みたいなものを介したライブチャットみたいなネットアイドル的な話とか、未来が書かれていたような気さえしますよ。

 

印象深いのは七瀬三部作もそうだけれど、
読むきっかけになった「ホンキイ・トンク」
「農協月へ行く」
「にぎやかな未来」
「メタモルフォセス群島」
「アルファルファ作戦」
大いなる助走
「俗物図鑑」
とか本当に昔のやつですね。短編集が多いかも。

昔は吸ってたので「最後の喫煙者」とかも凄かった。
タイトルでも逝かせるのが「日本以外全部沈没」とかですね。
「虚人たち」と「虚航船団」で私にはわけ分からなくなりましたが。自分にもっと知識があればなあと感じるところですけどね。

 

本(文庫よ)自体は退職時に住んでいた超高級wマンションを売って引っ越した際、実家物置の取り出しにくい場所に数箱のダンボールに詰めて仕舞ってしまいました。

これはブログで何度も書いてますが、ゆくゆくはそれを発掘してタイトルだけでも眺めたい。(実家にいる時にやる気を出せばいいんだけど、転落する危険があるのです)

色は褪せていたし、古いので虫が食っていたりして本は既にダメかもしれず、でも電子版にかなり用意されてきたので今なら読み返せますね。今読むと、良識人になってるので、逆に拒否反応を起こすかもしれませんw

 

内容とあまり関係なく、筒井さんの本をいろいろ紹介したいので書くのですが、

この「モナドの領域」は捜査する警部が美しい男という設定でした。それならば「美藝公」という小説があります。見た目じゃなく精神や所作がという話だったっけか。

また、これは刑事ものかと思わせてそうじゃなく(笑)、でも事件というなら「ロートレック荘事件」や「富豪刑事」(深田恭子でドラマにもなったね)がありましたよ。懐かしいですね。

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